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これまでになかった!教育本来の目的である 『自己実現』の定義とは

教育本来の目的である「自己実現」を図る方法を体系化し、誰もが活用できるようになれば、一生の財産となります。しかしこれまで、教育現場では「自己実現」という言葉を明確に定義していませんでした。抽象化された概念を具体的な教育方法にするためには、まず、言葉を明確に定義しておかねばなりません。幸いなことに、書籍を通じて自己実現研究の第一人者に巡り会い、直接、教示していただくことができました。

「自己実現」に着目したこと

「一人ひとりの持てる力や可能性を最大限発揮し、社会のため、人のために貢献できる素地の育成」
これを学校教育の目的にしてきました。
教育基本法第1条の「教育の目的」にも通じ、教育本来の目的とされる「自己実現」を図ることにもつながります。

私が課題として追究してきた、教科学習によって育成される学力とそれ以外のすべての活動を通じて育成する人間性や社会性を一体的に培う方法は、「自己実現を図る教育方法」であったとも言えます。

「原田メソッド」を自ら学び、自ら生活の中で活用することによって、また原田メソッド認定講師として、他者に指導することを通じて、理論と方法とツールを備える原田メソッドが、「自己実現」を図る方法として活用できるのではないかと考えました。

そこで、「自己実現」の理論的根拠を明確にし、「自己実現」の定義を言語化することによって、「自己実現」を図るための教育方法として改めて体系化してみたいと思いました。

「自己実現」の定義は存在しなかった

「ネット」で検索するとコーチング関連の記事の中に、「自己実現」を定義しているものを見つけましたが、定義というよりそれぞれの解釈といった印象でした。

そこで、教育心理学者の梶田叡一氏の「生き方の人間教育を」(金子書房 1997年)を読んでみました。するとそこには「自己実現というのは難しい言葉ですが、はやりの言葉でもあります。したがって、いろんな人がいろんな視点から自己実現の話をしています。」
とあり、さらに「本当の自己実現とは、自分の一生を自分なりに生ききっていけるようなることである、と考えています。」という梶田氏個人の見解として表現にとどまっていました。

ところが、その後、人間主義心理学会が編集した「人間の本質と自己実現」(川島書店1999年)の中の第5章、梶川裕司氏が書いた「わが国における『自己実現』の受容の現状」を読み、はじめて「自己実現」という言葉が文教用語そいて定義されていないことを知りました。

なぜ、「自己実現」という言葉の定義が必要か

梶川裕司氏は、「わが国における『自己実現』の受容の状況」(「人間の本質と自己実現」川島書店1999年)の中で、次のような指摘をしています。

現在の日本では、教育、経済界といった人々の生活に大きな影響を持つ領域で、自己実現に一定の関心を持たれている。また、個人にとっても、自己実現が魅力的なことばとしてとらえられている可能性は高い。・・・中略・・・ただ、その自己実現が、今のまま曖昧なことばとして通用している限り、本当の意味での自己実現を、個人が達成したり、組織が援助したりすることはできないだろう。
(「わが国における『自己実現』の受容の状況」)

そして、自己実現ということばを定義することの必要性について、次のように述べています。

公的組織には、きちんとした理論的根拠をもって、自己実現を定義してもらいたい。また人間主義の立場の研究者は、人々が自己実現に関心を示している現状を認識して、それを多くの人々に、学問的誠実さを失わず、平易な表現で、うまく理解してもらえるような活動をおこなうことが必要であり、それは、自己実現論が、個人の幸福と社会の運営に貢献できる第一歩ではないかと思われる。
(「わが国における『自己実現』の受容の状況」)

「自己実現」という言葉の使われ方

さらに梶川氏は、自己実現の理論的根拠を明確にしないまま、用語としての自己実現が一般化することに危惧を感じているとし、情報化社会において、自己実現という言葉が耳障りのよいキャッチコピーのように人を引きつけていくことは、自己実現への糸口を与えることにならず、場合によっては自己崩壊への道になる場合もあることを指摘しています。

そして、その上で、経済界と教育界における「自己実現」という言葉の使われ方について次のように述べています。

(1)経済界での使われ方

とりわけ経済界では、これまでの経営理論であったX理論(「アメとムチ」によるマネジメント手法)に対して、アブラハム・マズローの心理学に影響を受けたダグラス・マグレガーがY理論(「社会的欲求や自我・自己実現欲求」によるマネジメント手法)を提唱したことにより、自己実現という言葉が、理論的な根拠を帯びないまま一人歩きするようになったと指摘しています。

したがって、次のような会社紹介が散見されると言います。
・(会社は)私たち一人ひとりの自己実現・自己完全燃焼を図るために応援し、全体と個人の統合・調和させ、幸福創造をはかる場である。
・(社長の言葉)21世紀において、私たち◯◯社が、さらに成長し企業として自己実現にチャレンジし続けるには、ますます競争の激化する国際市場において評価される存在になる必要があります。
・(経営の方針として)“豊かさの追及”豊かな人間生活の創造を目指し、あらゆる生活の場で心豊かに快適な暮らしをエンジョイできるフレッシュなライフスタイルを独自性をもって提案し、自己実現のパーツとしての素材を提案する企業。

 このように、経済界への影響としては、マグレガーの経営理論への関心から、その起源となったマズローの自己実現理論へと関心が広まり、自己実現という用語が「自己実現のパーツ」のように言葉遊び風に浸透していることがわかると指摘しています。

(2)教育界での使われ方

教育界では、1981年の「生徒指導の手引き」で「自己実現」という言葉が見られるようになり、次第に生徒指導にとどまらず教育全般に使用される教育用語として定着していったようです。しかし、明確に定義した文言は見出すことができず、このままでは、言葉は多用されても理論的根拠のないスローガン化していくおそれがあると指摘しています。

「自己実現」の定義について

梶川裕司著「わが国における『自己実現』の受容の現状」は、「自己実現」という言葉の定義がないことを明らかにするとともに、そのことがもたらす現状の課題をも示唆するものとなりました。

そこで、さらに詳しく研究することで「自己実現」という言葉の定義を明確にするために、直接、梶川裕司先生から教えを請いたいと考え、教示していただく機会を得ました。

したがって、これ以降の内容は、梶川氏から、直接教えていただいた内容をもとにまとめてみます。

梶川氏は、文部科学省が想定している「自己実現」について、二人の者をあげました。一人は、ドイツのゴールドシュタインとあと一人は、アメリカのマズローです。この二人の研究経過とその定義は次の通りだといいます。

(1)ゴールドシュタインの「自己実現」定義

ドイツの大脳病理学者だったゴールドシュタインは、「大脳の機能局在の証明」を目的として、第1次世界大戦に軍医として参加しました。そして、戦争によって大脳を損傷した兵士の治療を進めながら、脳の機能の分業制を明らかにし、脳は部分で機能していることを見つけ、脳全体の地図を作成しました。

この過程でゴールドシュタインは、大脳の損傷部分によって生じる身体的な機能の喪失が回復不能ではないことを経験します。つまり、医師の立場からみると回復不能だと思われる患者の中に、例外的に機能を回復させる者が出たのです。

そして、そうした患者の他との違いは、回復することを強く願い、決して諦めていなかったこと、そうした気持ちを持ち続けていたことを見つけました。

これにより、ゴールドシュタインは、「人は自分のなろうとするものになる能力を持つ」という人間の特質を見出し、これを自己実現と定義しました。

(2)マズローの「自己実現」定義

人格心理学者のマズローは、当時の心理学者としてはたいへん珍しく、「健康な心」に関する研究をめざしていました。しかし、それまで「健康な心」の定義がなかったため、研究にあたっては、苦肉の策として「マズロー自身が、健康だと思った人が健康である」として200人以上の健康な心の持ち主を対象として研究を進めました。

それによって、人間には共通して存在する欲求の体系があること、そして、低い段階の欲求が満足されて初めて次の段階の欲求が現れることなど、後年に欲求階層説とよばれる考え方を見出しました。

マズローは、ゴールドシュタインの研究成果の上に、自身の研究成果を重ねんて、自己実現を「人は自らなろうとする最高のものになる欲求をもつ」として定義しました。

「定義」と活用

このような経過を踏まえながら、自己実現研究の第一人者である梶川裕司氏は、これまで文部科学省が使用してきた文教用語としての「自己実現」は、マズローの定義(考え方)を想定したものであると結論づけました。

「自己実現」とは、「人は自らなろうとする最高のものになる欲求をもつ」こと。

このようにマズローは「自己実現」を「欲求」として捉えました。
であれば、「人は自らなろうとする最高のものになる欲求をもつ」状態にあり続けることが、「自己実現」を図ることになるのではないかという考えにいたりました。その旨、梶川氏に確認したところ、そのような捉え方は自然なことであるのではないかというお墨付きをいただくことができました。

具体的な教育方法を考える理論的根拠ができたことは、これからの活用に向けての推進力になります。

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